デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

改正犯収法への備え⑤「疑わしい取引の届出制度」

2016/11/04

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、疑わしい取引の届出制度に関連した改正も行われた。本稿では疑わしい取引の届出制度における改正点を中心に同制度を概説する。

1. 疑わしい取引の該当性の判断

犯収法では、士業者を除く特定事業者は、特定業務に係る取引において収受した財産が犯罪による収益である「疑い」がある又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法10第1条の罪若しくは麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている「疑い」があると認められる場合には、疑わしい取引の届出を行政庁に提出することが要請される(犯収法8条)。

この点、2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、そもそも、「疑いがあると認められる場合」には、速やかに行政庁に届出を行う旨が定められているに過ぎず、上記の「疑い」の判断をすることが条文上明確化されていなかった。また、「疑いがあると認められる場合」の判定についても、「取引時確認の結果その他の事情を勘案して、」との文言があったものの、具体的な判定方法については明文の定めがなかった。

これに対して、改正犯収法では、特定事業者にて上記の「疑い」があるかどうかを「判断」することが同法8条1項の文言上明確化されるとともに、疑いがあるかどうかの判断については、取引時確認の結果、取引の態様その他の事情及び国家公安委員会が作成・公表する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、犯収法施行規則で定める所定の方法により判断を行う点が明記された(同法8条2項)。

2. 疑わしい取引の該当性の判断方法

改正された犯収法施行規則26条、27条は、特定事業者による疑わしい取引の該当性の判断方法として取引の類型毎に判断項目や方法を定める。

①新規顧客との特定取引(いわゆる一見取引)(下記②に該当するものを除く。)
上記①の取引については、下記の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(犯収法施行規則27条1号、26条)。

(i) 当該取引の態様と、他の顧客等との間で通常行う特定業務に係る取引の態様との比較
(ii) 当該取引の態様と、過去の当該顧客等との他の特定業務に係る取引との比較
(iii) 当該取引の態様と取引時確認の結果に関して有する情報との整合性

この点、上記(i)の項目は、その業界における一般的な商慣習に照らして判断する(平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)156番参照)。

②既存顧客との特定取引(下記③に該当するものを除く。)
上記②の取引については、当該顧客等に係る確認記録や取引記録等の精査などをした上で(犯収法施行規則32条1項2号、3号参照)、上記①の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(同規則27条2号)。当該精査については、リスクに応じた事業者の判断により、取引ごとの深度が異なることも許容されている(リスクベース・アプローチ。本パブコメ回答163番参照)。

③特定業務に係るハイリスク取引(マネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い取引)
上記③の取引については、上記①又は②に係る確認方法に加えて、顧客等に対して質問を行ったり、取引時確認の際に顧客から申告を受けた職業等の真偽を確認するためにインターネット等を活用して追加情報を収集したりするなど(本パブコメ回答170番参照)、必要な調査を行うこととするとともに、当該措置を講じた上で、当該取引に疑わしい点があるかどうかを統括管理者又はこれに相当する者に確認させる方法により判断を行う(犯収法施行規則27条3号)。

上記③の取引としては、ハイリスク取引(犯収法4条2項前段)や、顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引(犯収法施行規則5条)、高リスク国に居住・所在する顧客との取引等、同法3条3項が規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してマネー・ローンダリングに悪用されるリスクが高いと認められる取引が挙げられる。

なお、特定取引が、犯収法施行規則27条3号に規定する取引に該当する場合には、特定事業者は、努力義務として、犯収法施行規則32条1項4号及び5号に掲げる継続的顧客管理措置(当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて統括管理者(犯収法11条3号)の承認を受けさせること及び情報の収集、整理及び分析を行ったときは、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること)を講じることが要請される。

3. 疑わしい取引の届出書

疑わしい取引の届出書の様式については、犯収法改正に伴う所定の様式の改正はあるものの、同改定に伴なう実質的な内容の変更はない(犯収法8条1項、同法施行令16条、同法施行規則25条、別紙様式)。疑わしい取引の判断項目・方法の届出様式への反映は、従前と同様に届出理由欄に記載すれば足りると解されている(本パブコメ回答173番参照)。

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弁護士 鈴木 正人

弁護士 鈴木 正人
岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)、『The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition』(共著 Law Review、2016年)等著作多数。

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