デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

グローバルコンプライアンスへの備え ⑩ 海外贈賄防止ガイダンス(手引)の概要(海外贈賄防止ガイダンス (3))

2017/11/07

1. はじめに

前回ブログでは、日本弁護士連合会が策定した海外贈賄防止ガイダンス(手引)(以下「本ガイダンス」という。)のうち、第1章「海外贈収賄防止体制の整備」の意義と第1条「経営トップがとるべき姿勢と行動」の内容を解説した。本ブログでは、本ガイダンス第1章第2条「リスクベース・アプローチ」について説明する。

 

2. リスクベース・アプローチ(第2条)

(1) はじめに

経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)では、「外国公務員贈賄防止体制の構築及び運用に当たっての特に重要な視点」の1つとして「リスクベース・アプローチ」が挙げられている。これは、「贈賄リスクが高い事業部門・拠点や業務行為については、高リスク行為に対する承認ルールの制定・実施、従業員に対する教育活動や内部監査といった対策を重点的に実施してリスク低減を図り、他方、リスクが低い事業部門等については、より簡素化された措置が許容される」、との考え方である(本指針第2章1.(4)②「リスクベース・アプローチ」参照)。

本ガイダンス第2条も「リスクベース・アプローチ」を定めているが、内訳としてリスクアセスメントの実施、贈賄リスクの程度に応じた対応、リスクアセスメントの継続的・定期的な実施の3つの項目を規定している。以下、具体的に説明する。

(2) リスクアセスメントの実施

本ガイダンス第2条第2項は、リスクアセスメントの実施として、具体的なアセスメントの方法・手段を定める。

すなわち、贈賄リスクの高い事業活動に対して重点的に人的物的資源を配分するリスクベース・アプローチを採用することを目的として、企業が以下の項目のリスクアセスメントを実施する旨が定められている。

図1 リスクアセスメントの項目

本指針でも贈賄リスクの高低について(a)進出国の贈賄リスク、(b)事業分野の贈賄リスクと(c)賄賂提供に利用されやすい行為類型が紹介されているところ、本ガイダンス第2条第1項第1号から第3号はこれらの項目に対応するものである。

第1号は、進出国の贈賄リスクの指標としてTransparency International のCorruption Perceptions Index スコアを挙げ、第2号・第3号は事業分野や行為類型に応じたリスクに言及している。同条第2項(後記)に関連するが、企業がこれらの基準を踏まえて贈賄リスクが高い進出国、事業分野、行為類型などの洗い出しをすることは有用であろう。

また、本ガイダンス第2条第1項第4号は、検証項目として、企業集団の海外贈賄防止体制につき、経営トップの姿勢、組織体制、社内規程の整備・遵守状況を挙げる。経営トップの姿勢は本ガイダンス第1条に、組織体制は同第4条に、社内規程の整備は同第3条に定められており、これらはいずれも重要な項目であるところ、リスクアセスメントの実施時にこれらの項目を検証することは非常に重要であろう。

さらに、本ガイダンス第2条第1項第5号は、基礎的情報収集、ヒアリング、又はアンケート調査など具体的なリスクアセスメントの実施方法を定めている。

(3)  贈賄リスクの程度に応じた対応

本ガイダンス第2条第2項は、贈賄リスクの程度に応じた対応を定める。具体的には同条第1項のリスクアセスメントの結果を分析し、現地拠点又は事業に応じて贈賄リスクの格付けを行い、接待・贈答・外国公務員等の招聘・寄付の規制方法、教育・モニタリングの対象・頻度・方法、エージェントなど第三者の管理・評価の方法、子会社の支援の方法等を決定することを定める。

具体的には、現地拠点又は事業に応じて贈賄リスクの格付けを行い、特にリスクが高いものから優先的に接待・贈答・寄付などの規制方法の策定(同第3条参照)や教育訓練の実施(同第6条参照)を行う対応が考えられる。また、モニタリング(内部監査も含まれ得よう。)の対象・頻度・方法の決定(同第7条)、エージェントなど第三者の管理・評価の方法の決定(同第8条)、子会社の支援の方法の決定(同第15条)においてもリスクベース・アプローチが妥当することになると考えられる。

(4) リスクアセスメントの継続的・定期的な実施

本ガイダンス第2条第3項は、リスクアセスメントの継続的・定期的な実施を定める。贈賄リスクの高低は進出国の規制環境、事業分野や取引のはやりすたり等により変動することが想定される。

そこで、企業はリスクアセスメントを継続的かつ定期的に実施することが肝要である。PDCAサイクルを機能させ、リスクアセスメント、ひいてはリスクベース・アプローチの高度化・精緻化を図ることは有益であろう。

また、企業は継続的かつ定期的なリスクアセスメントの実施に加えて、必要に応じた随時・適時の評価も必要である。本ガイダンス第2章に定める有事が発生した場合などリスクアセスメントの内容に重大な影響を与える事象が発生したときは、リスクアセスメントの見直しを検討することも必要である。

次回のブログでは、「第1章 海外贈収賄防止体制の整備」「第3条 基本方針及び社内規程の策定」以下の内容に触れていく(第1章の構成は図2参照)。

図2 本ガイダンス第1章の構成

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弁護士 鈴木 正人

弁護士 鈴木 正人
岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)、『The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition』(共著 Law Review、2016年)等著作多数。

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