デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

グローバルコンプライアンスへの備え ⑥ 企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(4))

2017/07/07

1. はじめに

前回ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)の内容を踏まえて外国公務員贈賄防止体制として望ましい要素のうち、社内における教育活動の実施、監査、経営者等による見直しの項目の留意点等について概説した。本ブログでは、子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方について説明する。

2. 子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方

(1) はじめに

日本企業では連結・グループ経営が重要であり、海外子会社・グループ会社を抱える企業集団も多い。また、近時は、海外子会社・グループ会社における不祥事が生じるケースが増加している。親会社は、企業グループ内の直接・間接に支配権を有する子会社に対して、外国公務員贈賄規制に関して必要な防止体制の構築及び運用を推進し、その状況について定期又は不定期に確認することが重要である。その際に、考慮すべき有益な要素について説明する(本指針第2章3参照)。

(2) リスクベース・アプローチの採用

まず、外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を推進するに当たり、その子会社の範囲やその内容についてもリスクベース・アプローチを採用することが有用である。

日本企業としては、子会社・グループ会社の管理に当たり一律のグループポリシーを策定し、一律に適用することが理想ではあるものの、外国公務員贈賄規制違反のリスクは、進出国、事業分野等により異なる。また、連結経営において、それぞれの子会社・グループ会社の自社グループにおける重要性も異なる。そこで、防止体制の構築・運用を推進する子会社の範囲やその内容についても、リスクベース・アプローチが適用されることが肝要である。

例えば、①現在及び将来の企業価値のみならず、贈賄リスクの多寡や事業の性格を踏まえて重要と言える子会社や②プロジェクトの進行過程の要所で親会社が承認を行うなど実質的関与を行う場合における当該プロジェクトを担当する子会社については、防止体制が構築されることが望ましいといえよう。

このように、子会社を特定し、リスクベース・アプローチに応じて外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を推進することが考えられる。

(3) 日本企業の子会社・グループ会社への関与方法

まず、日本企業は、連結経営の観点から子会社・グループ会社の管理に当たりグループポリシー等を策定し、これを子会社・グループ会社に遵守させることは有用であるが、一方で、子会社・グループ会社においては株主の意向を踏まえつつも各社の経営陣が業務執行を行うこととなる。そこで、子会社の防止体制の構築・運用に関して、子会社が自律的に防止体制を構築・運用することが原則となる。

もっとも、現実に、子会社の対応能力・経験が乏しい場合もある。このような場合には、親会社である日本企業は、不足するリソースを補完し、さらに、必要な場合には親会社が主導して子会社の体制を構築・運用することが重要である。

すなわち、日本企業の多くの海外子会社は、人員の限界もあり、外国公務員贈賄の防止に関する対応能力や経験が不足していると考えられる。このため、子会社において、自律的に防止体制を構築し、運用することが困難な場合には、親会社や地域統括会社のコンプライアンス部門の支援が必要となることが多いと考えられる。親会社や地域統括会社のコンプライアンス部門の支援は、外国公務員贈賄の防止に限定されるものではないが、外国公務員贈賄規制の重要性に鑑み、グローバルコンプライアンスの分野の中でも支援の優先度が特に高いと考えられる。

日本企業がリソース補足や主導的な子会社の外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を行うに当たっては、当該子会社の外国公務員贈賄規制の対応状況の確認を行い、その内容を把握することが有用である。当該対応状況の確認に当たっては、規程類の整備状況にとどまらず、規程類を含めた防止体制が実際に現場において機能しているか否かを確認することが重要である。必要に応じて、親会社が子会社の現場従業員との意見交換、規程類の運用実績の確認(サンプルチェック等)といった手段を活用することも考えられる。これらの活用においては、子会社に対する点検・監査の一般的な手法が妥当すると考えられる。なお、子会社において、親会社の規程類をそのまま「コピー」する事例もあるが、子会社においては、親会社の規程類をベースにしつつも、決裁や承認のプロセス等については、子会社の組織・体制、人員、業種に応じて、リスクに対応する機能的な規程類を整備することが望ましいと考えられる。

また、企業グループ内の合弁会社など、自社が直接・間接の支配権を有さない場合には、可能な範囲で、必要な防止体制の整備・運用を図る対応が考えられる。

(4) 海外子会社・グループ会社との協働・情報交換

日本企業は、連結経営の観点から企業集団で、従業員を対象とする贈賄防止に関する研修などの教育活動やコンプライアンス・プログラムを共同で実施することや、監査、内部通報体制等を共同で運用することも有意義である。このような共同実施、共同運用は、内容面で一定水準を確保することが期待できるとともに、有事における早期の対応を可能とする観点から有効である。

なお、日本企業が海外子会社・グループ会社と協働して外国公務員贈賄規制を行うに当たっては、自国から海外entityへの情報伝達が伴うことが想定される。特に外国公務員贈賄規制においては、従業員や許認可を付与する外国政府関係者、代理人、取引先等のパーソナルデータの伝達が行われることが想定される。この点、近時は、世界各国でパーソナルデータの国外移転規制が導入されており、例えば、EUの個人データ保護指令(Data Protection Directive 95)は、第三国への個人データの移転制限をしている。企業集団全体で贈収賄対応に係る個人情報を処理する場合には、そのような関係法令にも留意する必要がある。EUとの関係では、個人データ保護指令に代わり、2018年5月25日にEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が適用される予定であり、規制が強化される。また、日本国内では2017年5月30日に施行された改正個人情報保護法24条により日本企業が海外子会社・グループ会社を含む外国にある第三者に対して個人データを移転する際には原則として本人の同意が必要となった。日本企業が本人の同意なしに個人データを海外子会社・グループ会社に対して提供するためには、契約やグループポリシー等で個人情報保護法の趣旨に沿った措置を講じることなどが要求されており、これらは現状での現実的な対応方法となっている。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「有事における対応の在り方」などの留意点等について説明する。

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弁護士 鈴木 正人

弁護士 鈴木 正人
岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)、『The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition』(共著 Law Review、2016年)等著作多数。

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