デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

グローバルコンプライアンスへの備え③ 企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(1))

2017/04/04

1. はじめに                

前回ブログでは、不正競争防止法での外国公務員等贈賄規制を概説したが、本ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)を踏まえて企業における外国公務員贈賄防止体制について概説する。

2. 企業における外国公務員贈賄防止体制

(1) 体制の構築・運用の必要性

前々回、前回のブログでは日本で活動する企業におけるグローバルコンプライアンスリスクとして外国公務員贈賄規制対応の重要性が増している点を説明した。この点、株式会社の取締役は同社に対して善管注意義務を負うが(会社法330条、民法644条)、善管注意義務の内容として取締役には企業において通常想定しうる不正行為についてそれを回避するための内部統制システムの構築が求められるとの趣旨の判例がある(日本システム技術事件最判平成21年7月9日)。そこで、外国公務員贈収賄のリスクが通常想定される事業を実施する企業は、内外の関係法令を遵守し、企業価値を守るために必要な防止体制を構築する必要があるものと考えられる(本指針6頁参照)。

本指針は、このような内部統制の在り方に関する考え方を踏まえて、外国公務員贈賄防止の視点に特化して、防止体制の構築・運用にあたり留意すべき内容を例示している。本指針は、国際商取引に関連する企業における外国公務員等に対する贈賄防止のための自主的・予防的アプローチを支援することを目的として策定されたものであるが、日本で活動する企業において参考になるため、以下、例示内容等を紹介する。

(2)  防止体制の構築及び運用にあたっての視点

本指針は、防止体制の構築及び運用にあたっての視点として、①賄賂が会社のためになるとの誤った認識を断ち切る等の経営トップの姿勢・メッセージの重要性、②リスクベース・アプローチ、③贈賄リスクを踏まえた子会社における対応の必要性を挙げる(同指針7頁参照)。

まず、①経営トップの姿勢・メッセージの重要性であるが、法令等遵守全般について妥当するものであると考えられる。法令等遵守について担当者任せにするのではなく、経営トップが法令遵守を貫くことが中長期的な企業の利益にもつながる点を明確にし、従業員等に発信するとの対応は、法令等遵守を社内に周知・浸透させるに当たり肝要である。

次に、②リスクベース・アプローチに関して、本指針は、贈賄リスクが高い事業部門・拠点や業務行為を対象に、高リスク行為に対する承認ルールの制定・実施、従業員に対する教育活動や内部監査といった対策を重点的に実施してリスク低減を図る一方で、リスクが低い事業部門等については、より簡素化された措置を許容するアプローチの採用を提唱する。当該アプローチは、企業のコンプライアンス対応(例えば、アンチ・マネー・ローンダリング対応など)に当たり一般的に妥当する考え方である。

本指針では、贈賄リスクの高低については、進出国の贈賄リスク、事業分野の贈賄リスク及び賄賂提供に利用されやすい行為類型に着目し、これらを総合勘案して判断することが基本となるとの考え方が示されている(同指針8頁参照)。贈賄リスクが高いものの内容は、以下の図のとおりである。

<贈賄リスクが高いもの>

進出国

アジア、中東、アフリカ、南米等

事業分野

事業の実施に現地政府の多数の許認可を必要とする状況が認められる場合

外国政府や国有企業との取引が多い場合など外国公務員等と密接な関係を生じやすい性格を持つ場合

行為類型

現地政府からの許認可の取得・受注や国有企業との取引などに関して助言や交渉を行う事業者(エージェント、コンサルタント)の起用・更新

高リスクと考えられる国・事業分野におけるジョイントベンチャー組成の際の相手先の選定や、高リスクと考えられる国・事業分野におけるSPCの利用

高リスクと考えられる国・事業分野において当該国の政府関連事業実績の多い企業の取得(株式の取得等)

受注金額や契約形式等から勘案して贈賄リスクが高いと考えられる公共調達への参加

外国公務員等に対する直接、間接の支払を伴う社交行為

企業が自主的にリスクを分類することやハイリスク項目等を設定することは困難を伴うケースもあるところ、本指針による分析は非常に参考になると考えられる。

さらに、③贈賄リスクを踏まえた子会社における対応の必要性の項目では、親会社が、企業集団に属する子会社において、リスクの程度を踏まえた防止体制が適切に構築され、また、運用されることを確保することの必要性が述べられている(本指針9頁参照)。構築と運用を確保する手段としては、親会社が株主権に基づいて子会社役員を選解任する方法や親子会社間で契約を締結する方法などが紹介されている。

その他、防止体制が有効に機能しているか否かの判断は、運用状況やその評価が重要であり、企業は、自らが構築し、運用している防止体制の水準が、現状において十分なものとなっているか否かについて、国内外の同業他社の水準や海外当局発行のガイドライン等をも参考にしつつ、常に検討し改善するよう不断の努力が求められる旨が述べられている。このように、企業は、外国公務員贈賄防止体制を構築した後も適宜見直しや改善の必要性がないか検証することが有用である。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「企業が目標とすべき防止体制の在り方」について説明する。

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弁護士 鈴木 正人

弁護士 鈴木 正人
岩田合同法律事務所パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FTACA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、『Q&Aインターネットバンキング』(共編著 金融財政事情研究会、2014年)、『The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition』(共著 Law Review、2016年)等著作多数。

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