デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

2016/12/05
改正犯収法への備え⑥「特定事業者の体制整備」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、特定事業者の体制整備に関連した改正も行われた。本稿では特定事業者による取引時確認等の措置などの改正点を概説する。

1. 特定事業者による取引時確認等の措置

2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、「顧客の取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」と「使用人に対する教育訓練の実施その他の必要な体制の整備」が特定事業者の努力義務として規定されていた(旧法10条)。

これに対して、FATFからの指摘を踏まえて継続的な顧客管理措置を法定するため、改正犯収法では、特定事業者が講じる努力義務として、上記の内容として以下の事項が追加された(同法11条各号、同法施行規則32条1項各号)。

◎ 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成(同法11条2号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任(同条3号)
◎ 自らが行う取引(新たな技術を活用して行う取引その他新たな態様による取引を含む。)について調査し、及び分析し、並びに当該取引による犯罪による収益の移転の危険性の程度その他の当該調査及び分析の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(以下「特定事業者作成書面等」という。)を作成し、必要に応じて、見直しを行い、必要な変更を加えること(同法11条4号、同法施行規則32条1項1号)
◎ 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、取引時確認等の措置を行うに際して必要な情報を収集するとともに、当該情報を整理し、及び分析すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項2号)
◎ 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、確認記録及び取引記録等を継続的に精査すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項3号)
◎ 顧客等との取引が同法施行規則27条3号に規定する取引(いわゆるハイリスク取引)に該当する場合には、当該取引を行うに際して、当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて同法11条3号 の規定により選任した者の承認を受けさせること(同法11条4号、同法施行規則32条1項4号)
◎ 同法施行規則32条1項4号に規定する取引について、同条項2号に規定するところにより情報の収集、整理及び分析を行ったときは、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項5号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な能力を有する者を特定業務に従事する職員として採用するために必要な措置を講ずること(同法11条4号、同法施行規則32条1項6号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査を実施すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項7号)

上記措置の詳細については、平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)での見解が参考になる。なお、特定事業者作成書面等の作成((同法11条4号、同法施行規則32条1項1号)に当たり参考とする犯罪収益移転危険度調査書(同法8条2項)であるが、平成28年11月24日に「平成28年犯罪収益移転危険度調査書」(下記URL参照)が公表されているため、各社においては同調査書の内容にも注意が必要である。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk281124.pdf

上記事項については金融庁の各種監督指針の「取引時確認等の措置を的確に行うための法務問題に関する一元的な管理態勢が整備され、機能しているか。」との項目でも言及されているものがある。これらは努力義務ではあるが、金融機関は当該措置を講じるために努める必要があり、監督指針では、その点を含めた態勢が整備されているかという着眼点を定めているとされている(平成28年7月27日付改正監督指針に係る金融庁パブコメ回答2頁9番、10番参照)。そこで、特に金融機関については、上記措置に係る対応を行うことが望まれる。

2. 外国営業所、外国子会社の体制整備の努力義務

特定事業者のうち、金融機関(犯収法2条2項1号から38号までに定めるものであり、国内に本店又は主たる営業所若しくは事務所を有するものに限る。)については、外国において特定業務に相当する業務を営む外国子会社又は外国において営業所(以下「外国所在営業所」という。)を有する場合であって、犯収法、同法施行令及びこの命令に相当する当該外国の法令に規定する取引時確認等の措置に相当する措置が取引時確認等の措置より緩やかなときには、以下に掲げる措置を講じる努力義務を負う(同法11条4号、同法施行規則32条2項各号)。

◎当該外国会社及び当該外国所在営業所における犯罪による収益の移転防止に必要な注意を払うとともに、当該外国の法令に違反しない限りにおいて、当該外国会社及び当該外国所在営業所による取引時確認等の措置に準じた措置の実施を確保すること
◎当該外国において、取引時確認等の措置に準じた措置を講ずることが当該外国の法令により禁止されているため当該措置を講ずることができないときにあっては、その旨を行政庁に通知すること

上記の趣旨は、特定事業者に対し、支配下にある外国所在の子会社を含め、グローバルに整合性のとれた犯罪収益の移転防止に係る体制整備を求める点にあり(本パブコメ回答199番参照)、「取引時確認等の措置」の全部又は一部が義務付けられていない場合は緩やかであると評価されると解されている(同回答198番)。

3. 銀行等の特定事業者が外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う場合に講じる措置

銀行等の特定事業者が外国銀行などの外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う場合には、①当該業者が、取引時確認等相当措置を的確に行うために必要な基準として主務省令で定める基準に適合する基準を整備していること及び②当該業者が、業として為替取引を行う者であって監督を受けている状態にないものとの間で為替取引を継続的に又は反復して行うことを内容とする契約を締結していないこの確認を行わなければならない(犯収法9条。当該主務省令は同法施行規則29条参照)。

同条はコルレス先がいわゆるシェルバンクではない点を確認するためのものである。

また、特定事業者による確認の方法は、当該業者から申告を受ける方法又は当該業者若しくは外国監督当局相当の外国機関がインターネットで公表している情報を閲覧して確認する方法である(同施行規則28条)。

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2016/11/04
改正犯収法への備え⑤「疑わしい取引の届出制度」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、疑わしい取引の届出制度に関連した改正も行われた。本稿では疑わしい取引の届出制度における改正点を中心に同制度を概説する。

1. 疑わしい取引の該当性の判断

犯収法では、士業者を除く特定事業者は、特定業務に係る取引において収受した財産が犯罪による収益である「疑い」がある又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法10第1条の罪若しくは麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている「疑い」があると認められる場合には、疑わしい取引の届出を行政庁に提出することが要請される(犯収法8条)。

この点、2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、そもそも、「疑いがあると認められる場合」には、速やかに行政庁に届出を行う旨が定められているに過ぎず、上記の「疑い」の判断をすることが条文上明確化されていなかった。また、「疑いがあると認められる場合」の判定についても、「取引時確認の結果その他の事情を勘案して、」との文言があったものの、具体的な判定方法については明文の定めがなかった。

これに対して、改正犯収法では、特定事業者にて上記の「疑い」があるかどうかを「判断」することが同法8条1項の文言上明確化されるとともに、疑いがあるかどうかの判断については、取引時確認の結果、取引の態様その他の事情及び国家公安委員会が作成・公表する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、犯収法施行規則で定める所定の方法により判断を行う点が明記された(同法8条2項)。

2. 疑わしい取引の該当性の判断方法

改正された犯収法施行規則26条、27条は、特定事業者による疑わしい取引の該当性の判断方法として取引の類型毎に判断項目や方法を定める。

①新規顧客との特定取引(いわゆる一見取引)(下記②に該当するものを除く。)
上記①の取引については、下記の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(犯収法施行規則27条1号、26条)。

(i) 当該取引の態様と、他の顧客等との間で通常行う特定業務に係る取引の態様との比較
(ii) 当該取引の態様と、過去の当該顧客等との他の特定業務に係る取引との比較
(iii) 当該取引の態様と取引時確認の結果に関して有する情報との整合性

この点、上記(i)の項目は、その業界における一般的な商慣習に照らして判断する(平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)156番参照)。

②既存顧客との特定取引(下記③に該当するものを除く。)
上記②の取引については、当該顧客等に係る確認記録や取引記録等の精査などをした上で(犯収法施行規則32条1項2号、3号参照)、上記①の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(同規則27条2号)。当該精査については、リスクに応じた事業者の判断により、取引ごとの深度が異なることも許容されている(リスクベース・アプローチ。本パブコメ回答163番参照)。

③特定業務に係るハイリスク取引(マネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い取引)
上記③の取引については、上記①又は②に係る確認方法に加えて、顧客等に対して質問を行ったり、取引時確認の際に顧客から申告を受けた職業等の真偽を確認するためにインターネット等を活用して追加情報を収集したりするなど(本パブコメ回答170番参照)、必要な調査を行うこととするとともに、当該措置を講じた上で、当該取引に疑わしい点があるかどうかを統括管理者又はこれに相当する者に確認させる方法により判断を行う(犯収法施行規則27条3号)。

上記③の取引としては、ハイリスク取引(犯収法4条2項前段)や、顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引(犯収法施行規則5条)、高リスク国に居住・所在する顧客との取引等、同法3条3項が規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してマネー・ローンダリングに悪用されるリスクが高いと認められる取引が挙げられる。

なお、特定取引が、犯収法施行規則27条3号に規定する取引に該当する場合には、特定事業者は、努力義務として、犯収法施行規則32条1項4号及び5号に掲げる継続的顧客管理措置(当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて統括管理者(犯収法11条3号)の承認を受けさせること及び情報の収集、整理及び分析を行ったときは、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること)を講じることが要請される。

3. 疑わしい取引の届出書

疑わしい取引の届出書の様式については、犯収法改正に伴う所定の様式の改正はあるものの、同改定に伴なう実質的な内容の変更はない(犯収法8条1項、同法施行令16条、同法施行規則25条、別紙様式)。疑わしい取引の判断項目・方法の届出様式への反映は、従前と同様に届出理由欄に記載すれば足りると解されている(本パブコメ回答173番参照)。

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2016/10/05
改正犯収法への備え④「特定取引に関するその他の改正点」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、既に改正犯収法への備え②、③で解説している「外国PEPsとの取引の新設」及び「法人の実質的支配者の概念の変更」の他、特定取引に関連したいくつかの改正が行われた。本稿では改正法下における、特定取引の追加、顔写真がない本人確認書類の取扱い・法人の取引担当者の確認の厳格化、簡素な顧客管理を行うことが許容される取引に関して概説する。

1. 特定取引(顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引と敷居値以下に分割したことが明らかな取引)の追加

2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、疑わしい取引の届出に関する内報の禁止の規制の存在や解釈上の指針があることから、マネー・ローンダリングの疑いのある取引や経済的又は法的な目的のない複雑な取引、異常な大口取引又は異常な形態の取引に対する措置が法令上明文化されていなかった。

この点、FATFの指摘などを踏まえ、改正犯収益法は、「顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引」と「敷居値以下に分割したことが明らかな取引」を特定取引に明文上追加した。

まず、「顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引」として、「疑わしい取引」(取引において収受する財産が犯罪による収益である疑いがある場合、取引に関し組織的犯罪処罰法10条の罪又は麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる取引)と「同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引」の2種類の取引が追加された(改正犯収法施行令7条1項柱書、同法施行規則5条各号)。

次に、「敷居値以下に分割したことが明らかな取引」として、特定事業者が同一の顧客等との間で2以上の以下の①から④に掲げる取引(なお、括弧書は敷居値)を同時に又は連続して行う場合において、当該2以上の取引が1回当たりの取引の金額減少させるために当該取引を分割したものの全部又は一部であることが一見して明らかであるものがある(改正犯収法施行令7条3項)。この場合、特定事業者は、当該2つの取引を1の取引とみなして特定取引に該当するかどうかを判断する。
①現金等受払取引等(200万円超)
②現金等払戻し(10万円超)
③本邦通貨と外国通貨の両替又は旅行小切手の販売若しくは買取り(200万円超)
④貴金属等の売買契約の締結(200万円超)

2. 顔写真がない本人確認書類の取扱いの厳格化

旧法では、自然人の顧客や法人取引担当者の取引時確認において、顔写真がない健康保険証、年金手帳などの公的証明書が本人確認書類として認められており、例えば、対面取引においては健康保険証などの一部の顔写真のない証明書は当該書類の提示のみで本人確認書類として足りていた。

この点、FATFの指摘などでは写真のない証明書に関しては確認能力が劣るとされているため、改正犯収法では、健康保険証、年金手帳などの顔写真のない一部の証明書の提示を受けた場合には、特定事業者は、これらの書類の確認に加えて、取引関係文書の転送不要郵便等による送付、他の本人確認書類又は公共料金の領収証などの補完書類の提示などの二次的な確認措置を講じることが必要となった(改正犯収法施行規則6条、7条)。

3. 法人の取引担当者の確認の厳格化

特定事業者は、法人顧客との特定取引に関して法人の取引時確認に加えて、法人顧客の取引の任に当たっている自然人(いわゆる取引担当者)の確認が要請されている(犯収法4条4項)。取引担当者の確認については、同人の本人特定事項の確認に加えて当該法人の代表権限の確認も必要である。

旧法では、代表権限の確認方法として、社員証等による確認や当該取引担当者が法人の役員として登記されていることの確認による方法が認められていた。

この点、FATFからの指摘により上記確認方法は当該法人の代理権限の付与の確認方法としては不適切であるとされたため、改正犯収法では、社員証等による確認が廃止され、また、登記による確認については取引担当者が法人を代表する権限を有する役員として登記されていることの確認方法が要請されることになった。
後者の改正との関連では、例えば、代表権がない取締役として登記がなされている者(いわゆる平取締役)が取引担当者である場合には、登記事項証明書による確認を行うことができなくなった(改正犯収法施行規則12条4項2号ロ)。

改正犯収法下では、法人の代表権の登記がない取引担当者については、委任状などの取引の任に当たっていることを証する書面(同号イ)、法人の本店や営業所等に電話をかける方法(同号ハ)、法人と取引担当者等との関係を認識しているなどの方法(同号ニ)により確認することになり、特に同号イ又はハの方法で確認を行うケースが従前よりも多くなると考えられる。

なお、既に旧法下で代理権限を確認している法人顧客との特定取引においては、犯収法4条3項に基づき取引時確認済の顧客の確認を行えば足り、当該取引がハイリスク取引や顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引などに該当しない限り、改正犯収法下で、別途、同法に対応した代表権限の確認を行う必要はないとされている。

4. 簡素な顧客管理を行うことが許容される取引

改正犯収法では、FATFの指摘を踏まえたリスク評価により、旧法において「犯罪による集積の移転に利用されるおそれがない取引」に分類されていた取引について「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」に名称を変更した(改正犯収法施行規則4条)。また、電気・ガス・水道等の公共料金や国内の小・中・高・大学・高等専門学校の入学金・授業料などの現金納付が新たに「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」に追加された(同条1項7号)。

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2016/09/12
改正犯収法への備え③「法人の実質的支配者の確認」

改正犯収法では、法人の実質的支配者の概念が変更されるとともに、確認事項や確認方法が改正された。本稿では改正法下における法人の実質的支配者の確認に係る留意点を概説する。

1. 犯収法改正の背景と法人の実質的支配者の概念

2013年4月に施行された現行の犯収法において、特定事業者には法人顧客の実質的支配者の本人特定事項の確認などが新たに義務付けられた。具体的には、現行の犯収法においては、法人顧客が株式会社などの資本多数決法人である場合には原則として「25%超の議決権を直接保有する者」が実質的支配者に該当し、法人顧客が一般社団法人や公益法人などの資本多数決原理が働かない法人である場合には「代表権限を有する者」が実質的支配者に該当する。

この点、FATFは、法人の真の受益者(Ultimate Beneficial Owner)、すなわち自然人に遡って支配者を確認することを要請してきた。その上で、現行犯収法では資本多数決法人において自然人ではなく法人が実質的支配者に該当するケースもあり、また、法人の議決権の間接保有者は実質的支配者に該当しないことになり、さらに資本多数決原理が働かない法人において実質的支配者となる「代表権限を有する者」はFATFが想定する「最終的に法人を所有・支配する者」とは異なるとのFATFからの指摘を受けていた。 そこで、改正犯収法は、法人の実質的支配者の概念を変更し、原則として自然人まで遡るようになった。

改正犯収法下における法人の実質的支配者の判定は下図のとおりである(同法4条1項4号、改正犯収法施行規則11条、JAFICホームページhttps://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/filowcls20161001.pdf 26頁参照)

 出典: JAFICホームページ『犯罪集敵移転防止法の概要』26ページ 9. 実質的支配者の確認方法 より

実質的支配者の該当性は原則として取引の時点で判断するが、合理的な範囲で近接した時点(例えば、直近の株主総会開催時)での状況により判断することもできると解されている。

実質的支配者に該当する自然人が複数いる場合には、その全てが実質的支配者に該当する。また、議決権の25%超を保有する自然人(法人の収益総額の25%超の配当を受ける自然人)であっても、他に議決権の50%超を保有する自然人(法人の収益総額の50%超の配当を受ける自然人)が存在する場合は、議決権の50%超を保有する自然人(法人の収益総額の50%超の配当を受ける自然人)が実質的支配者に該当し、25%超の議決権を保有している(法人の収益総額の25%超の配当を受けている)自然人は実質的支配者に該当しないことになる。

なお、国、地方公共団体、上場会社等、企業年金基金など(以下「国等」という。)やその子会社は、法人の実質的支配者の判定に当たっては、自然人とみなされる(改正犯収法施行規則11条4項)。そこで、これらの場合において法人の実質的支配者の本人特定事項の確認においては、生年月日の申告を受けることは不要となる(同法4条1項1号、平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)129番参照)。「上場会社等」には上場投資法人(上場REITなど)は含まれない(改正犯収法施行規則11条4項5号、金融商品取引法施行令27条の2各号、金融商品取引法2条1項11号参照)。

2. 実質的支配者の確認事項及び確認方法など

改正犯収法においては、法人の実質的支配者の確認事項も改正された。

現行の犯収法では、資本多数決法人など法人の実質的支配者が存在しないケースも存在するため、確認事項の中に法人の実質的支配者の「有無」が含まれている。一方で改正犯収法では、原則として自然人に遡って法人の実質的支配者が判定され、少なくとも、法人の実質的支配者が存在しない事態は想定されていない。そこで、法人の実質的支配者の「有無」は確認事項ではなくなった。

なお、特定事業者が作成する確認記録(改正犯収法6条1項)には、顧客等(国等を除く。)が法人であるときは、実質的支配者の本人特定事項及び当該実質的支配者と当該顧客との関係並びにその確認を行った方法を記載する必要がある(改正犯収法施行規則20条1項18号)

また、改正犯収法においては、自然人に遡って支配者を確認することとなったため、法人の実質的支配者の確認方法も改正された。

まず、通常の特定取引に関しては、当該法人顧客の代表者等から、実質的支配者の本人特定事項について申告を受ける方法により確認を行うこととなった(改正犯収法施行規則11条1項)。この点、特定事業者の知識、経験及びその保有するデータベースに照らして合理的でないと認められる者を実質的支配者として申告した場合には、特定事業者は正確な申告を促す必要があるとの見解が示されており(本パブコメ回答112番等)、特定事業者にて顧客情報に関するデータベースを充実させることは有用な対応になると考えられる。

一方で、ハイリスク取引に関しては、法人顧客の株主名簿(資本多数決の原則を採る法人の場合)、登記事項証明書(資本多数決の原則を採る法人以外の法人の場合)等の書類を確認し、かつ、実質的支配者の本人特定事項について当該顧客から申告を受ける方法による確認を行うことになる(改正犯収法4条2項、同法施行規則14条3項)。

3. 改正犯収法における経過措置の留意点

改正犯収法の施行により、法人の実質的支配者の概念が変更され、原則として自然人まで遡って確認することが要請されることになった。そこで、特定事業者は、施行日(平成28年10月1日)前に既に取引時確認を行っている顧客であっても、施行日以後に行う特定取引の際に改めて、改正後の法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項を確認することが原則として必要である(その他、確認済の確認の特例を活用する場合には、当該措置を講じる必要がある(改正犯収法4条3項)。)。

ただし、施行日以後に行う特定取引が、施行日前に締結された継続的な契約に基づく取引に該当する場合や、施行日前に特定事業者が改正後の法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項の確認を行っている場合には、特定事業者は、施行日以後の特定取引の際に、改めて改正犯収法下における新たな法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項を確認する必要はない(改正犯収法附則4条参照)。

その他、経過措置の関係では、改正犯収法附則4条が定める取引であっても、顧客又は代表者等になりすましの疑いがあるもの、本人特定事項の偽りの疑いがあるものなどについては、特定事業者は改正犯収法4条2項に基づく厳格な取引時確認を行う義務が生じるなどの例外があるため、注意を要する。

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2016/08/10
改正犯収法への備え②「外国PEPsとの取引」

犯収法では、ハイリスク取引に外国PEPsとの特定取引が追加された。本稿では外国PEPsとの取引に係る留意点を概説する。

1. 犯収法改正の背景と外国PEPsの概念

PEPsとは、Politically Exposed Personsの略語であり、重要な公的地位にある者を意味する。外国PEPsはその社会的立場からマネーローンダリング等の犯罪に巻き込まれる潜在的なおそれがあるため、個々の事情に関わらず常にリスクの高いものとして取扱わなければならないとのFATFからの要請を踏まえ、改正犯収法は、外国PEPsとの特定取引をハイリスク取引に追加した。

改正犯収法は、外国PEPsに該当する者として以下の者を定めている(同法4条2項3号、改正犯収法施行令12条3項、改正犯収法施行規則15条、11条2項)。

1. ● 外国の元首
● 外国において下記の職にある者
 - 我が国における内閣総理大臣その他の国務大臣及び副大臣に相当する職
 - 我が国における衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長又は参議院副議長に相当する職
 - 我が国における最高裁判所の裁判官に相当する職
 - 我が国における特命全権大使、特命全権公使、特派大使、
   政府代表又は全権委員に相当する職
 - 我が国における統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、
   海上幕僚副長、航空幕僚長又は航空幕僚副長に相当する職
 - 中央銀行の役員
 - 予算について国会の議決を経、又は承認を受けなければならない法人の役員
2. 過去に①であった者
3. ①又は②の家族(配偶者(事実婚を含む。)、父母、子、兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子)
4. ①から③が実質的支配者である法人


 

日本国政府等において重要な公的地位を有する者(いわゆる国内PEPs)は今回の犯収法改正では含まれていない。また、上記②との関係で退任期間についての限定はなく、過去のある時点で①の地位にあれば足りる。上記③との関係で、本人の祖父母や孫が、上記④との関係で、国連・IMF・FATF・OECD等の国際期間、外国中央銀行、大使館などが、それぞれ外国PEPsの対象に含まれない(平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)32番、35番、37番)。

2. 厳格な取引時確認及び統括管理者の確認・承認

特定事業者は、ハイリスク取引である外国PEPsと特定取引を行うに際しては、通常の特定取引と同様の確認事項に加え、厳格な取引時確認として、その取引が当該確認事項について一部厳格な確認方法で確認をする必要があり、さらに、200万円を超える財産の移転を伴う取引である場合には疑わしい取引の届出の判断に必要な限度で「資産及び収入の状況」の確認を行う必要がある(同法4条2項、同施行令12条)。

また、特定事業者は、外国PEPsと特定取引を行う場合には、疑わしい取引の届出の判断に際して統括管理者等に所定の確認をさせる必要があり(同法8条2項、同施行規則27条3号)、加えて、統括責任者の承認を受けさせる努力義務を負う(11条4号、同施行規則32条1項4号)。

特定事業者は、上記規制の適用を判断するため、顧客が外国PEPsに該当しないかの確認を行う必要がある。なお、日本人であっても外国PEPsに該当する可能性があるため(例えば上記表③に該当する場合など)、顧客が日本人であっても、居住者・非居住者の有無にかかわらず、外国PEPs該当性の確認をする必要がある(本パブコメ回答26番参照)。

3. 外国PEPs該当性の確認の留意点

犯収法は、特定事業者による外国PEPsの該当性の確認方法について特に定めを置いていない。また、日本の関係省庁が外国PEPsのリストを作成する予定はないとされており(本パブコメ回答23番)、当該リストとの照合による確認方法は想定されていない。

この点、本パブコメ回答22番は、「商業用データベースを活用して確認する方法のほか、インターネット等の公刊情報を活用して確認する方法、顧客等に申告を求める方法等が考えられ、特定事業者がその事業規模や顧客層を踏まえて、各事業者において合理的と考えられる方法により行われることとなり、確認ができた範囲内において厳格な顧客管理を行うことになります。」との見解を示している。そこで、特定事業者はその事業規模や顧客層を踏まえて、外国PEPsの該当性の確認方法を決める必要がある。

商業用データベースを活用して確認する方法、インターネット等の公刊情報を活用して確認する方法、顧客等に申告を求める方法は複数の方法を併用することも許容されると考えられる。漏れを少なくするためには、特に商業用データベースを活用して確認する方法と顧客等に申告を求める方法を併用することが効果的であると考える。

4. 既存顧客との関係

外国PEPsとの特定取引については、取引済確認の顧客との取引についてもその都度、厳格な取引時確認を行う必要がある(改正犯収法4条3項、2項、改正犯収法施行令13条)。また、外国PEPsとの取引に関しては既存顧客に係る経過措置の定めがない。そこで、特定事業者が改正犯収法施行後に既存顧客が取引を行う場合は、顧客が外国PEPsに該当しないかの確認を行う必要がある。

この点、平成28年7月27日に改正犯収法の施行に対応した金融庁監督指針が改正された。同日付の金融庁パブリックコメント回答20番では、施行日時点において全ての既存顧客について外国PEPs該当性の確認を完了しておかなければならないものではない、との見解が示されているが、少なくとも既存顧客への外国PEPs該当性確認の対応状況については当局等に説明できるように確認に着手しておくことが肝要であると考えられる。

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2016/07/08
改正犯収法の概要①

2014年11月27日に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下「犯収法」という。)の改正法(以下「改正犯収法」という)が公布され、2015年9月18日に、改正犯収法に係る政省令が公布された。2007年に制定された犯収法や同法に関連する金融庁監督指針などは、その後もFATF( 金融活動作業部会) からの指摘等を踏まえて改正がなされてきたが、特にFATFが指摘する顧客管理に関する事項への対応が十分なレベルに達していなかったため、今回の改正に至った。改正犯収法の概要は以下のとおりである。

①特定取引の概念の整理、厳格化
・取引時確認の対象となる特定取引の追加(敷居値以下に分割したことが明らかな取引と顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引の追加)
・簡易な顧客管理を行うことが許される取引の整理
②厳格な取引時確認の対象となるハイリスク取引(外国PEPsとの間の特定取引)の追加
③取引時確認における法人の実質的支配者の確認に関する規定の改正
④取引担当者の代理権の確認方法の変更
⑤顔写真のない本人確認書類の取扱いの変更等
⑥疑わしい取引の疑いの判断、当該判断基準の明確化
⑦顧客管理措置に関する体制整備等の努力義務の拡充
⑧外国営業所、外国子会社の体制整備の努力義務
⑨コルレス先との契約締結の際の確認義務
⑩国家公安委員会による犯罪収益移転危険度調査書の作成及び公表

改正犯収法のうち、⑩国家公安委員会による犯罪収益移転危険度調査書の作成及び公表やマイナンバー法が定める通知カードや個人番号カードの取扱いに関する改正ついては、既に施行されているが、それ以外の事項は2016年10月1日に施行の予定である。今回の改正は非常に多岐にわたり、特定事業者はこれらの改正事項に対応する必要がある。

本稿では改正犯収法の概要を簡潔に説明し、重要な改正事項のポイントは今後の「改正犯収法への備え」の連載で説明する。

1. 取引時確認関係の改正

改正犯収法では、特定事業者による取引時確認関係で上記①から⑤の改正がなされた。特に重要なものとして、①、②及び③がある。これらは今後の連載でも取り上げる。

まず、①では、取引時確認の対象となる特定取引として、「敷居値以下で分割された関連する取引」及び「疑わしい取引その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要するもの」(「疑わしい取引」および「同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引」)が追加された。これらの改正は顧客管理に関する事項としてFATFからの勧告を踏まえたものである。

次に、②厳格な取引時確認の対象となるハイリスク取引として、特定事業者による外国PEPsとの間の特定取引が追加された。PEPsとは、重要な公的地位にある者(Politically Exposed Persons)を指すが、その社会的立場から、マネーローンダリング等の犯罪に巻き込まれるおそれが類型的に認められ、外国PEPsとの間の特定取引もハイリスク取引に追加された。ハイリスク取引の確認は取引毎に要請されるため、特定事業者では外国PEPsであるか否かの確認方法の構築が実務上、喫緊の課題となっている。

さらに、③取引時確認における法人の実質的支配者の本人特定事項について、議決権その他の手段により当該法人を支配する自然人(natural person)まで遡って確認することを求める改正がなされた。これも、法人の最終的な受益者(Ultimate Beneficial Owner)を確認すべきとするFATFからの指摘を踏まえたものである。今回の改正により、実質的支配者の概念がさらに複雑となり、特定事業者は法人顧客の取引時確認について改正対応が必要となる。

2. 疑わしい取引の届出制度関係の改正

改正犯収法では上記⑥の疑わしい取引の届出制度に関する改正もなされた。具体的には、特定事業者は、疑わしい取引の届出を行う前提として個々の取引の精査を行うことが要請され、また、同法が定める基準(確認項目や確認方法)に従い、疑わしい取引の疑いの判断を行い、当該届出を行うことが要請されることになった。

3. 特定事業者の体制整備関係等の改正

改正犯収法により、特定事業者の体制整備等の努力義務が拡充された(上記⑦、⑧)。取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下「取引時確認等の措置」という。)としての体制整備等の努力義務の内容は、使用人に対する教育訓練の実施、取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成、取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任その他主務省令で定める事項である。また、特定事業者のうち、金融機関については、外国営業所、外国子会社の体制整備の努力義務が課されることとなった。さらに、銀行等の特定事業者が外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う際には所定事項の確認義務が課されることとなった(上記⑨)。

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